![三重県津市 花屋 chelban [シェルバン] 床掃除と名残雪](https://chelban.com/wp/wp-content/uploads/2026/01/スクリーンショット-2026-01-14-175037.png)
- 2026.01.18
- 生活の花
床掃除と名残雪
一昨年に、店舗を移転した。
移転したと言っても前の店舗から歩いて一分もかからない、目と鼻の先の距離だ。
その移転する前の店舗での話。
お店は毎年、年末の三十一日まで営業している。
受け渡しなどの最後の仕事が終わるのが、午後二時から三時ぐらいになる。
一通りの仕事を終えてから、年の最後にはいつも床掃除をしていた。
ほうきで床を掃いてから、エルフバケツにお水を溜めて、雑巾を浸して床掃除をする。
絞った雑巾を床に手でかけて、ひとつひとつ汚れを取っていく。
そんなアナログな掃除の仕方に、僕は安心感を覚えていた。
ここが自分の居所であるという感覚を作ってくれる行為は、生活の中で愛しいものだ。
最近は、年々と年末年始も暖かくなっているように感じる。
十年くらい前は、ひどく寒い日が多かったという印象がある。
うちのお店は、年末が一年で一番忙しい店だった。
今でこそ母の日など一年を通して忙しい月などが徐々に増えていったが、最初の頃は全然そんなことは無く、年末が一番忙しかった。
クリスマスを過ぎてから、生け込みやディスプレイの依頼が急に入り、個人オーダーも年末数日に固まってくるので、一口にお花屋さんはなどとは言えないのであるが、うちのお店の場合は体感として忙しく感じてしまいがちな環境となっていた。
その頃は雪が降る年も多く、依頼されたお店の外にお花を生ける時も寒さで耳や手先が痛いぐらいだった。
門松は、土や砂利石などを入れて一基六十キロ~七十キロぐらいの重さで足元を作っていたが、以前はこれを極寒の厳しい寒さで激しく雪が打ち付けてくる中に一人で行っていたのだから、最近は暖かくてとても気が楽に感じる。
そんな寒さの中で、バケツの水に手をつけて雑巾を絞るのだから身体の芯まで堪える。びびびっと背中や腕に冷気が電流のように一瞬で走っていくように寒気を覚えた。
暖房などはかかっていないし、コンクリート打ちっぱなしのビルはとにかく寒かった。それは、外よりも寒く感じられる日が多かった。
しかし、そんな作業はほっとするというか、穏やかに一年のことを感じさせてくれる時間を僕に与えてくれていた。
自分の居所であるから、手で汚れた床にふれて拭き取ることにさえ充足感があった。
お店を開いた時に、マリエさんといっしょに木の床をグレイッシュなブルーに塗った。
「お客さん、来てくれるかな」と期待と不安を持って話し合った日々。
新しく塗られた床が、お客さんが来てくれて歩いた数だけ、僕達が接客したり作業をした数だけ、足跡が残りペンキが徐々に剥げていった。
そんな床の汚れを年末に拭く時に、お客さんと僕達の足跡から思えることが沢山あった。
お店は、生きている。
過ごした日々のこぼれ落ちていくような感覚の一粒一粒が残雪のような情景を心に描き、お店の息遣いが生まれていく。
移転してから、お店があった場所は短い間に二回店舗が変わった。
今はトランクルームになっている。
思い出などというものは、本人達にとっては大事なのだが、新しい思い出を作ろうとする人にとっては大事がいつも先に立つ。
目をつぶれば、確かに思い出せる景色。レイアウトも棚の様子も切れかけた照明も、全部が思い出せる。
床を拭いていて良かったと思える。
環境が変わったり、まだ見ぬ場所に移り変わろうとも、変わらないものがある。
春が訪れても見つかる雪、名残雪の情景を心に今も描き続ける。
春の景色の中で、胸に冬の景色を抱くようなのが、ちょうど良い。
どちらもあるから美しい名残雪の情景が感じられる。
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